とあるレンジャーの休日

 塚本が話していた。
 歩が大学に進まず、下士官になる道を選んだのは、お兄さんを超えたかったからだと。

 紫乃は少し悩んで、試しに一歩踏み込んでみることにした。

「――お兄さんは? やっぱり一般から入ったの?」

 すると歩は一瞬顔をこわばらせ、ふと目を逸らす。
 そして口を開く前に、紫乃に向かって手を伸ばしてきた。
 紫乃はそれを見て、同じように手を差し出す。

「兄貴は、防衛大からだよ。三歳上で、入隊は俺の方が一年早かった」

 そう言いながら、彼は紫乃の手をそっと握った。
 紫乃もゆっくり寝返ると、歩に向き直って微笑む。

「そこから追い上げるつもりだったの?」

 冗談ぽく訊いたら、歩は真面目な顔をして頷いた。

「兄貴の階級に追いつけたら、俺の勝ちだと思って」

「それは……」

 相当難しいことのように思える。
 だが彼は実際、最も険しいルートを最速で駆け上がってきたのだ。

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