とあるレンジャーの休日
「もう切れちゃってるのは別に平気だよ。見るのがダメなんじゃなくて、俺が誰かを切ったりとか、そういうのが、ちょっとね」
紫乃は少し考えてから、静かに頷いた。
「守るために戦うのが、自衛官だもんね」
医師の場合は、治療や検査のため、相手の同意の元に侵襲行為を行う。
自衛官が故意に人を傷つけることがあるとすれば、それは、任務を遂行するために必要でどうしても避けられない場合。
もしくは相手から攻撃を受け、それを迎撃する時――などだろうか。
まして、彼が所属するのは特殊部隊だ。
相手方の最前線に降りて行って、作戦展開をする工作部隊。
たとえ目的が災害救助だったとしても、一番危険な場所へ真っ先に降りて行く人たちなのだ。
歩は小さな声でポツリポツリと呟く。
「任務完遂のために、自分を犠牲にするのは、別にいいんだ。どんなに危険でも、飛び込むことで、結果誰かを守ることに繋がるなら、俺は行けると思う。でも……」
彼はゆっくりその場に膝をつき、腿の上に置いた手を、強くギュッと握りしめた。