とあるレンジャーの休日
「相手が誰であれ、自分から攻撃を仕掛ける自信はない。それが任務の為に絶対必要なことだったとしても。殺意を持って向かってくる相手を、本気で殺しに行けるのかは……わからない」
紫乃は息を呑み、何かを言おうとして、そのまま途方に暮れた。
――自分が彼に言える言葉を、何も持っていないことに気付いて。
「ごめんな、こんな話。でも考え始めたら止まらなくなっちゃってさ。俺、兄貴を追いかけて、何にも考えず自衛官になったから。27にもなって、情けないんだけど」
紫乃は顔を上げ、首を思いきり横に振った。
「何にもって……ちゃんと考えてるし、自覚もあるじゃない」
そう言うと、歩は苦笑いを浮かべた後、ふと真顔に戻って呟いた。
「でも、兄貴が退職して出て行くとき、俺に言ったんだ。『何のために戦うのか考えろ』って。兄貴に勝つためとか、自衛官なら当然っていうんじゃなくて……。いざ自分の命がかかった瞬間、迷わず飛び出して行くための、明確な理由をさ」
「――命を投げ出すための理由?」
紫乃が顔をしかめると、歩は静かに頷いて言った。