とあるレンジャーの休日

 紫乃はギョッとして身構えた。

「良いこと?」

「うん。なんか顔色がいいっていうか。いつもより表情明るいよ」

 横で、薫子が包帯を外しながら、ニヤニヤしている。

 紫乃は「別に何もないよ」と呟いて、顔を背けた。
 だが表情に出ていたらしく、彼女は薫子の顔も見ながら、目をキラキラさせる。

「彼氏が出来た、とか? そもそも先生、独身なんだっけ?」

「私のことはいいから! サッサと外して、早く撮ってこい!」

 普段冷静な紫乃が取り乱すのを見て、その子はキャハハと笑った。

「先生、分かりやすーい」

 薫子もニヤニヤしたまま「かわいいよね、先生」などと、のたまう。

 紫乃はマスクを広げ、目元ギリギリまで顔を隠すと、まだ何も書くことのないカルテを意味もなくパラパラ捲ってみせた。



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