とあるレンジャーの休日

 うっかりすると、ざわつきそうになる胸を、紫乃は毒にも薬にもならない会話でなんとか落ち着かせようとする。

 並んで歩いていると、歩の腕や肩、背中が否応なしに視界に入ってきて、それらが気になって仕方ないのだ。

 彼の肩甲骨と僧帽(そうぼう)筋から長背筋への美しい流れ――出来ることなら、直接触って確かめてみたい。
 そう思うと、紫乃は歩きながらも、うずうずしてしまう。

(ダメだ……手を出したら、きっと色々終わる)

 そんな彼女の葛藤になど、まるで気付かない歩は、のんきに「腹減ったなぁ」と呟いた。

 紫乃は驚き、信じられないものを見たという顔をする。

「今さっき、お昼食べたばっかりだよね?」

 歩は、おかしげに笑った。

「だって俺、まだ若いから燃費悪いし」

「それ、父さんの前で言ってみな」

「ヤダ。絶対、締め技喰らうから」

 二人は一緒になって笑い、本屋までの道をのんびりと歩いた。

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