シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 階下で動く影がある。
 男子の誰かが携帯を持ってトイレに行くようだ。
 別の誰かを蹴飛ばしたらしく、いてっ、と寝ぼけ半分の声が上がる。
 わたしは脱皮する虫のように寝袋から這い出して、一階を見下ろした。
 暗闇に同化したシルエットでも、立っているのが誰かはわかった。遥人だ。

 遥人も眠れないのかもしれない。
 お互い同じことを考えていたんだとしたら、これはもう運命をねじ曲げてでも成就させたくなるというか、十四歳の自分と遥人をくっつけたくなる。
 過去の自分の恋のお膳立てをするなんておかしな話だけれど、やはりわたしの魂は二十二歳で、容れ物であるわたしとは別人という感覚だ。
 わたしはジャージの裾を直し、そっと階下へ降りた。

 遥人は部室を出てゆく。
 夜間は外出禁止で、もし問題起こしたら学園祭出場停止もありうると部長が言っていた。
 遥人のことだ。夜の水泳とか、突拍子もない行動に出るつもりかもしれない。
 何かひとこと言ってやろう。
 そう思ったわたしは、後をつける。

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