シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 わたしと遥人はつき合っていない。だから遥人を浮気だとか裏切りだと責めるつもりはない。
 もし仮にわたしたちがつき合っていても、偶然見てしまった遥人の浮気を問いただすなんて、そんな勇気が自分にあるとも思えなかった。

 二人に気づかれる前に、わたしは部室へ戻った。
 涼しい室内に戻ると、一瞬で汗がひく。
 男子の先輩を踏まないよう気をつけて、ロフトへ上がる。
 何も知らずに眠っている亜依がうらやましかった。
 好奇心にかられて遥人を追いかけたわたしは馬鹿だ。知らなければよかった。
 忘れよう。忘れればいい。そう思っても、動悸は治まらない。
 今すぐ自分の心臓を取り出して握りつぶしたくなる。
 目をぎゅっと閉じても、まぶたに焼きついた影が消えない。どうしても考えてしまう。この後、二人はどうするんだろう、と。
 抱き合ってキスをして。
 朝まで二人の時間を過ごすのだとしたら――。
 それ以上の想像はきつすぎた。
 呼吸を整える。
 吸って、吐いて、を繰り返す。
 徐々に鼓動も落ち着いてきた頃、扉が開く音がした。
 遥人が戻ってきたらしい。
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