シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 解散までの残り時間を刻むだけの前回までとは違う。三人が活動を続ける希望がある。
 解散を撤回して、活動休止に変える。最適なタイミングで提案したら、メンバーが受け入れてくれる可能性はある。
 浮かれすぎないよう、自分を戒めた。
 浮かれたら、せっかくたどり着いた繊細な分岐が壊れてしまいそうで怖かった。びっしり並べられて完成間近のドミノを、間違って倒してしまわないよう、わたしはそっとつぶやいた。

「大晦日にライブやるんだね」

 おうよ、と航が応じる。

「チケット販売、面倒だろうけど今回も頼むな」
「……うん」
「一度は紅白出たかったけど、夢は夢のまま終わるか。メジャーデビューしたら誰もが考えるもんな。そんなに簡単にかなうわけもないよな」

 亜依がコップをテーブルに置いた。

「『一度は』なんて言ってる時点で、志が低いよ」
「一度がなければ、二度目もないだろ」

 コップの中でビールが揺れる。
 わたしの心も揺れた。
 一度ならず、二度も過去に戻るなんて、やっぱりおかしい。
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