シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 他のみんなは違うらしい。
 みんながそれぞれの思惑で過去に戻り、合宿をやり直しているわけでない。
 でも、そうだとすれば、なぜわたしなのかという疑問が湧く。
 どうしてわたしだけが、八年前に飛ばされてしまうのか。

 わたしの身に起こった出来事を具体的に話したところで、リアルな夢を見ただけだと言われるのが落ちだ。今度こそ救急車を呼ばれるか、病院へ行くよう促されるかもしれない。
 でも夢を見る度に、次に目覚めたときの現実が変わっていくなら、夢が現実に介入し、影響を与えているということになる。
 それはもうただの夢や妄想じゃない。
 八年前の夏として繰り広げられる光景は、わたしの小さな脳内を走る電気信号じゃない。
 あきらめるにはまだ早い。

「ねえ、ライブの話だけど」
「うん、どうした?」
「ライブが盛り上がったら、やっぱり解散せずに活動続行することにしない? そういうどんでん返し、ファンは喜ぶと思うんだけど」
「ファン、ねぇ……。ほとんどハルのファンだし」

 亜依はわたしの意見など取るに足らずといった顔で、ガーリックトーストにかぶりついた。
 航も首を横に振る。

「リーダーが『うん』とは言わないだろうなあ」

 遥人が承諾しないというのか。高いハードルだけど、遥人を説き伏せないといけないようだ。

「わたし、遥人に話してみる」

 無駄だと思うなあ、と航がグラスについた水滴を指でぬぐい取る。

「リーダーの関心はもう次のステップに移ってるから」
「次って?」
「噂をすればご到着だ」

 振り返ると、遥人が店に入ってきたところだった。

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