シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 バスは時刻通りに来た。前回と同じバスだ。
 一人がけの椅子は埋まっていた。荷物が多いので、一番後列を選んで座った。
 バスが速度を落とし、乗車扉が開く。
 遥人が乗ってきた。
 IC乗車券をかざすと、車両の中ほどの位置に進み、手すりにつかまる。
 席を立って降車する客がベースケースにぶつかったようで、頭を下げている。
 わたしの存在には気づいていないらしい。

(遥人)

 声に出さずに呼んだ。こっちを振り向いてほしくて、視線をレーザービームのようにして狙い撃つ。
 でも遥人は顔をまっすぐ向けて窓の外を見ているだけだ。
 その目に映っているのは、わたしも知っている通学路の景色。
 何を考えているのかはわからない。

 わたしは席を立ち、走行するバスの中、転ばないよう気をつけて遥人のそばへ移動した。

「おはよう」

 遥人は一瞬眉を上げただけだった。
 おはよう、とつぶやく。

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