シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
「暑いね」
「ああ」
「熱帯夜だったみたいだけど、眠れた?」
「ああ」
「今日も暑くなるのかなあ」
「だろうな」

 話題がないときには、とりあえず天候の話をするのが一番のはず。
 でもすぐに弾が尽きてしまう。

「荷物多くて大変だね」
「いや別に」
「楽器持ち歩くのには慣れてるか」
「ああ」

 遥人からは、YESかNOの短い答えしか返ってこない。
 でも不機嫌でないのはわかっている。朝が苦手というわけでもないし、わたしが相手だからというわけでもない――おそらく。
 公共の場でぺらぺらと話すのを嫌う、育ちのよさが遥人にはある。変わっていないそんな姿を見ると、なんだか胸が温かくなった。

< 153 / 206 >

この作品をシェア

pagetop