シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
困ったな、と部長が頭をかく。
わたしは何がなんだかわからないまま、はあ、とうなずいた。
合宿中、夜は寝袋で寝るのだと部長が説明してくれた。
男子と女子が並んで雑魚寝するのはまずい、ということで、女子はロフト、男子は一階で眠るらしい。
事前に説明はあったのだろうけれど、十四歳のわたしはもともと合宿に参加するつもりがなく、寝袋も寝間着も用意してきていなかった。
二十二歳のわたしもうかつだった。学校に泊まるのだから、いろいろ必要なものがあるのは当然なのに、考えが至らなかった。
少し前まで、遥人の演奏を聴いて、恥ずかしながらうっとりしていたのだけれど、みんなの前で忘れ物を披露され、それどころではなくなってしまった。
中一の子が、あきれた目でわたしを見ている。
「僕の服でよければ貸したいけど、嫌だよね、女の子がそんなの」
「いえ、わたしは大丈夫です。学校には泊まらず、帰ります」
「えっ」
部長が大きな声を上げ、演奏が止まった。
顔が熱くなる。
「ご心配おかけして、すみません」
「でももう夜だよ。危ないよ」
「まだ七時ですよね。全然問題ないです。帰れます」
すみません、すみません、とみんなに謝って、指定鞄だけ持って部室を出る。
蒸し暑さの残る校庭を突っ切り、校舎の入り口にともる明かりを頼りに校門を目指す。
合宿中だからか、夜間も警備員さんが詰めているようで、「さようなら」と挨拶をした。
胸の中に、強い感情はなかった。
くやしさも、むなしさも淡く漂うだけで、そのときのわたしの気持ちをひとことで表現するなら「疲れた」が一番近かった。
わたしは何がなんだかわからないまま、はあ、とうなずいた。
合宿中、夜は寝袋で寝るのだと部長が説明してくれた。
男子と女子が並んで雑魚寝するのはまずい、ということで、女子はロフト、男子は一階で眠るらしい。
事前に説明はあったのだろうけれど、十四歳のわたしはもともと合宿に参加するつもりがなく、寝袋も寝間着も用意してきていなかった。
二十二歳のわたしもうかつだった。学校に泊まるのだから、いろいろ必要なものがあるのは当然なのに、考えが至らなかった。
少し前まで、遥人の演奏を聴いて、恥ずかしながらうっとりしていたのだけれど、みんなの前で忘れ物を披露され、それどころではなくなってしまった。
中一の子が、あきれた目でわたしを見ている。
「僕の服でよければ貸したいけど、嫌だよね、女の子がそんなの」
「いえ、わたしは大丈夫です。学校には泊まらず、帰ります」
「えっ」
部長が大きな声を上げ、演奏が止まった。
顔が熱くなる。
「ご心配おかけして、すみません」
「でももう夜だよ。危ないよ」
「まだ七時ですよね。全然問題ないです。帰れます」
すみません、すみません、とみんなに謝って、指定鞄だけ持って部室を出る。
蒸し暑さの残る校庭を突っ切り、校舎の入り口にともる明かりを頼りに校門を目指す。
合宿中だからか、夜間も警備員さんが詰めているようで、「さようなら」と挨拶をした。
胸の中に、強い感情はなかった。
くやしさも、むなしさも淡く漂うだけで、そのときのわたしの気持ちをひとことで表現するなら「疲れた」が一番近かった。