シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
「それにしても、ハルはタッパあるからスーツ似合うね。ね、思わない?」

 亜依に同意を求められ、わたしはうなずいた。
 わたしも言おうと思ってたんだけど、そういうのは先に口に出した者勝ちだ。
 遥人はどうでもいいという顔をしている。ほめられるのには慣れているんだろう。
 一瞬でも二人の注目を集めたい衝動が、わたしの中に沸き起こる。
 そうだ、とわたしは思いついたまま言った。

「今度、航も誘ってどこか遊びいこうよ」

 亜依は驚いた顔をして、不自然な間の後、いいけど、と言った。

「未波がそんな余裕だとは思わなかった」
「えっと、何の話?」
「卒論に決まってるでしょうが」

 忘れていた、なんて言えない。

「あー……そうね、もうひと山かふた山越えれば仕上がる感じ……?」
「おいおい、ふた山って結構あるやん。大丈夫?」
「なんとかする……」
「未波の悪い癖だよね」
「うー、言わないでー」
「やらなきゃいけないことを後回しにしがち!」
「反省してます……」
「うちが知る限り、中一の学園祭が最初の悲劇だったね」
「言わないでー」

 遥人がほんのわずかに唇の端を上げる。
 情けない自分を笑われるのだとしても、遥人が笑ってくれるのは嬉しい。どれだけでも馬鹿なことやっちゃいます、という気分になる。それほどまでに遥人の笑顔には力がある。
 同い年なのに、とても遠い気がするし、わたしと似たところなんてひとつもないと感じる。遥人を前にしていると、さびしさと憧れが混ざった複雑な気持ちになる。
< 6 / 206 >

この作品をシェア

pagetop