シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 終わらせる……?
 笑って、別れる……?
 何を終わりにするの? どうして笑えるの?
 わたしは声を振り絞った。

「信じられない」
「未波はうちらの一番のファンでいてくれたから、解散っていうのはショックかもしれないけど」
「休止じゃないのは、どうして」
「そんな中途半端な幕引き、うちのリーダーが許すわけないじゃん」
「リーダー……」
「ハル。ああ見えてバンメン思いの、美学を追及する男。……戻ってこないなあ、まさかのミイラ取りがミイラか?」

 亜依が伸び上がって、店の奥に目をやる。
 行かないで。
 わたしは亜依の腕をつかんだ――つもりが、指に力が入らなくて、袖口を引いただけだった。
 亜依が椅子に座り直す。

「中二のとき、軽音部で合宿したでしょ?」
「えっ」

 ほんの数分前に見ていたのが、夏の夢、まさに中二の夏だった気がする。
 亜依が続けた。

「ほら、学校に泊まったあれ、憶えてない? 一度きりで翌年からはなくなったよね。あの合宿がなかったら、うちのバンドは生まれなかったなあ。なんかさ、あんたが力説したんだよね。三人で音楽やるべきだって」
「……わたしが?」
「え、その話じゃないの? トライクロマティック生みの親、矢淵未波は名プロデューサーって」
「わたし、合宿休んでない……?」
「へ?」

 亜依は記憶を探るように、一瞬口ごもる。
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