シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
「本当に……わたし、学校に行った?」
「うん。最後まではいなかったけどさ。一緒に夕食も食べたもん。顧問が手配したお弁当。間違いないよ」

 亜依が断言する。
 そうか。
 確かに、合宿を休んだ記憶よりも参加した記憶の方が濃い。
 まるで昨日のできごとのように思い出せる。
 校舎内を一人で歩いた心細さ。まぶしいプールサイド。金網越しに見つめた遥人のクロール。
 夢のように思えたけれど、現実だったのだろうか。
 亜依がのんびりした口調で言った。

「なんつったっけ? 顧問の音楽教師」
「衛藤先生?」
「そうそう! 衛藤だ、衛藤。髪が長くて、なんか妖艶な感じだったなあ。明らかにすきがあるように見せかけて、いざ手を伸ばすと、するっと海に引きずり込みそう。綺麗な声で子守歌を歌って、船を沈ませる、そういう伝説あるよね」
「ローレライだっけ」
「そうそう、それ。衛藤が初恋の相手っていう男子多そう。どちらかっつーと、あんたも同じ系統だよね」
「わたしも?」
「うん。はかなげなとこが似てる。虚弱体質っぽいていうか、守ってあげたくなるような感じ」
「喜んでいいのかな」
「美人の系統だって言ってるんだから喜びなさい」
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