シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
「つかめなくなっちゃったんだよね」
「何を?」
「メロディのしっぽ」

 それは何よりも大切なものではないの?
 失っても笑っていられるのは、なぜ。

「おいら、自分のこと天才かと思ってた。一晩で三曲作ったこともあったよな? どれだけでもメロディが湧き出てきてさ、書き留めるのが大変なほどで。あの頃は、バンドがこんな風に死ぬとは思ってなかったよ」
「死ぬなんて、他人事みたいに言わないで」
「……未波ちゃん?」
「ひどい男」
「ちょっと、未波」

 亜依がわたしの腕をつかんだ。

「あんたが酔いつぶれてる間に、バンドの話はけりがついたの。航を責めたって仕方ないじゃん。今までいい曲たくさん作ってくれて、がんばってくれたんだよ。お疲れ様、ゆっくり休んで、って解放してあげるのが彼女としての筋じゃない?」
「休んでほしくない。それに、わたしは航の彼女じゃない」
「ちょっと……」

 目が覚めたらいきなり、航と恋人同士だなんて、そんな運命、認めたくない。

「悪い。大好きな未波ちゃんの前でもっといいとこ見せたかったけどな。でも、おいらはもう書かない。書けない」

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