シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 亜依が、んー、と首をかしげる。

「卒論も親に手伝ってもらえば?」
「さすがにそれは無理!」

 中学の頃、美術の授業でモザイクを制作した。色とりどりのタイルの破片を貼って絵を作る課題だ。
 学年全員の作品が学園祭で展示されることは、あらかじめ告知されていた。
 つまり完成期限ははっきり設けられていたにも関わらず、わたしはメインとなる部分になかなか手をつけず、手抜きしても多分ばれない背景ばかり作っていた。おかげで、学園祭前の最後の授業でも完成させられず、提出できなかった。
 いよいよ明日が学園祭という前夜、両親が夜なべして作ってくれた。
 食卓で小さなタイルの破片を板に貼りつける二人の背中。
 あのモザイクは「矢淵未波・作」ではなく、「矢淵家(三名)・作」だ。
 学園祭当日、わたしは展示スペースに直接、作品を持っていった。
 明らかに友人たちの作品と違う、大人の手が入ったそれは苦い思い出となった。

 最近では親の手をわずらわせることはほぼないけれど、必須の課題を後回しにする癖は治らない。
 というわけで、水曜日だけは一限から出席しなければならないのだ。
 Visual Basicプログラミングは必修の講義だとわかっていたのだから、三年時までに単位を取得しておけばよかった。後悔先に立たずだ。
 疲れが溜まり始める週の真ん中、休日にはまだもうひと踏ん張りが必要で、つまり一週間で一番憂鬱な朝。
 それが水曜日。つまり明日。

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