シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 三人が集まって生まれる音は、ただの音じゃなかった。
 鼓膜を震わす振動は、色と光も同時に連れてきた。
 小さなライブハウスに、カラフルでパワフルな虹がかかり、見上げたオーディエンスが喜びの吐息を漏らす。

 続けて視聴する。『boys & girls』、『明日になったら』。
 昔から知っているような、今初めて聴いたような、懐かしさと新しさが同居する楽曲たち。
 どれも航が書いた曲だった。
 結成して八年、デビューして三年の間に、航は二百を超える楽曲を発表していた。すごい数だ。

「就職することだし、これからは地に足を着けて、未波を幸せにしたいと思ってる」

 誠意ある言葉だとわかる。でも、心は震えない。
 わたしはここを動けない。
 この場所を離れたくない。
 ただ新しい音を待ってる。

 きっとあきらめなくてはいけないんだろう。
 全ての物事には始まりがあり、終わりがある。
 永遠に続くものなんてない。
 どんな長大な物語でも、長旅でも、いつか終点に着く。
 宇宙ですら、いつか終わりを迎えると言われているのだから。

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