シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
「仕方ないんだよ。大人になろう、未波」

 亜依が言う。
 こぼれそうな涙をこらえて、わたしは立ち上がる。
 そうだね。子どもの時代にいつまでもしがみついているわけにはいかないね。
 わかってる。
 わかってるんだけど。

 そうだとしても、世界の規則をはみ出したところに、わたしは手を伸ばしたい。
 たとえるならネバーランド。
 夢をあきらめなくてもいい場所へ。
 どんなに遠くてもいい。そこへ行きたい。
 終わることのないメロディがそこにはあって、わたしを包んでくれる。

「家まで送ってくよ」

 わたしの背中に手を添えて、航が言う。慣れない距離感に、どうしても抵抗を覚えてしまう。
 わたしを好きだと言う男の子。
 ずっと近くにいた同級生。
 この手を振り払ったら傷つけてしまう。わかっていたから、断るのは申し訳なかった。

「今日は一人で帰りたいの」
「心配だよ」
「気をつけて帰るから。駄目?」

 優しく目を細めて、航はわたしの背中から手を離す。

「いんや、駄目じゃないよ。でも帰ったら、必ずLINEくれな」
「うん。わかった」
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