シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
「おかずはタッパーに入れて、冷蔵と冷凍、いろいろ用意してあるからね。二泊三日、どうにかお父さんと乗り切ってくれる?」
「そのことなんだけど……わたし、学校に行くの。部活の合宿。帰ってくるのはお母さんと同じ日になる」
「あら……無理しなくていいと思ってたけど」
「無理はしてない。ちゃんと参加したいの」
「そう。それなら、行ってらっしゃい」
「うん。お母さんも、行ってらっしゃい」

 母が出かけた後、食卓に広げられた新聞を確認した。
 間違いない。今回も八年前の日付だ。
 テレビをつけ、横目でオリンピックの中継を見ながら、父に宛ててメモを残す。

『部の合宿で学校に泊まります』

 これで、わたしが帰らなくても心配しないだろう。

 母が昔、山岳部だった頃の寝袋を、押し入れから取り出した。
 他に体操着、水着、タオルも数枚。
 二十二歳の感覚だと、外泊するなら必要なアイテムはたくさんある。メイク道具以外に朝晩のお手入れ用の基礎化粧品も必要だ。服だって変えたい。
 でも今のわたしは十四歳だ。洗顔料と日焼け止めがあれば充分だし、昼間は制服、夜は体操着で過ごすつもりだ。
 荷物は意外に少なくまとまった。寝袋はかさばるけれど、背中にかつげばいい。

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