シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
「嫌なこと思い出しちゃったよぉ」
「なぐさめてあげたいけど、あんまりあんたのこと甘やかすのもよくないからね。人生のタスクに正しく優先順位をつけるってこと、そろそろ覚えないと」
「亜依~」
「自力でがんばれ」

 亜依の言葉に、遥人も無言でうなずく。
 そのとき、近くの席にいた別のグループが声をかけてきた。

「あの、トライクロマティックの方ですよね……?」

 紅潮した頬、きらきら光る眼でその青年は、遥人と亜依を見つめていた。
 わたしは一歩引いて、会話の行方を見守る。

「そうですけど」

 亜依が答えた。

「わー、本物だ。三人組だからもしかして、って思ったんですよ。youtubeで見たことあります! あの、握手してもらっていいですか?」

 遥人に向かって差し出された手は、血色がよかった。
 断るだろう、と思う。
 大学や街で声をかけられても、彼らは基本的にスルーする。
 ライブ会場以外でのファンサービスはしない。親しみやすいイメージと裏腹に、オンとオフの区別をきっちりつけるのが彼らの流儀だ。
 そもそも三人組と言うけれど、わたしをメンバーだと思っている時点で、この青年は「にわか」、熱心なファンでないのが明白だ。
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