シークレット・サマー ~この世界に君がいるから~
 からかわれたのだとわかり、わたしはむくれた。
 同じ部活という認識はあるはずだ。
 そして、単語帳に書かれたわたしの名前「MINAMI YABUCHI」も遥人の目に入っただろう。

 神南学院高校前のバス停で降りる。
 並んで歩くつもりはないらしく、遥人はわたしより先を行く。
 一緒に登校したところで、何を話せばいいかわからない。だったら離れていた方が気楽だ。沈黙を埋める必要がないから。
 校門前の守衛さんと挨拶し、グラウンドへ向かう遥人を追った。
 いつの間にか、十メートルくらい差がついている。
 大荷物を軽々と運ぶ背中がまぶしい。

 深緑から青緑まで、厚い葉が枝から伸び、つやつやと朝の光を浴びている。
 けやき、桜、名前のわからない何種類もの樹木。
 夏休みで造園業者が入っていないのだろう、グラウンドの隅には、草がぼうぼうと茂り、サッカーゴールを半ば埋もれさせていた。
 遥人が足を止める。
 その目の先に――亜依がいた。

 遠くからでもわかる。特徴的な長いストライド。
 地面を蹴り、腕を振り、カーブを曲がる。
 わたしにとっては多分、全力の短距離走くらいのスピードで、何百メートルも走り抜けてしまう。
 呼吸も乱さず、フォームも崩さず。
 さすが亜依だ。
 惚れ惚れしていると、遥人が振り向いた。
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