空色プレリュード
どうしよう‥緊張してきちゃった‥。曲名は‥あれにしよう。覚えてるから‥大丈夫できるはず‥。


「準備できました!」


よしっ!行こう!



「お待たせしました!続きましては軽音部の発表でしたが辞退されたため、代わりに天才ピアニスト、1年の橋村花音さんに発表してもらいます!お願いします!」



私は舞台に出た。

観客席からはどよめきが起こっていた。

私が全校生徒の前でひくのは今日が初めてだ。

曲目は‥乙女の祈り

なんか、私みたいだな‥。

そう思いながら私はひいた。



私はみんなが思ってるほど天才なんかじゃない‥

みんなが私を煽ってるだけ‥。

‥なんで、私だけがこんな思いをしなくてはいけないんだろう‥どうして‥


ふいに涙がこみ上げた。‥でも‥我慢した。

ピアノは泣きたいときに泣かせてくれない。私はピアノのこと好きだけど‥こんなときだけ、ピアノのことを好きになれないよ‥。


そして、演奏が終わった。

ほぼノーミスでのゴールだった。


花音は客席に向かって一礼した。すると、客席からは溢れんばかりの拍手が送られた。

よ‥よかった‥。ほぼノーミスでできた。‥でも‥おかしいな‥視界がすごく‥グラグラしてる‥集中‥し過ぎたのかな‥?



私はふらつく足どりで舞台裏に戻った。


舞台裏に戻ると中にいる役員も拍手していた。

「ありがとう!橋村さん!おかげで次に繋げられたよ。」

「‥はい。」


その言葉を言うだけで精一杯だった。そう言ったとたん、私はふらついた。


「花音!!!」



誰かが私の名前を呼んで支えてくれた。


誰かの手が私の手を握る。


この手の温もり‥千明くんだよ‥ね?


‥ああ、そっか‥ピアノの音から私の心の中を‥聞いちゃったんだね‥

千明くんには‥かなわないな‥。


私の記憶はここまでだった。


遠くに千明くんの声だけが響いている気がした。





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