空色プレリュード

「‥花音は、全然分かってない‥。」

「だから何を！？」

私をつい、イライラしてそんなことを言った。

「‥俺が、お前の気持ち聞いてどれだけ傷ついたと思ってるんだよ‥。‥すごく悲しい‥。」

「‥‥‥。」


そこまで千明くんが言った時、運動場の明かりが消え、やぐらに火がつけられた。

まわりが歓声に包まれた。



私は千明くんの言葉に何も言えなかった。

私は気づいてしまった‥

私が‥あの時、感情にのせてピアノをひいてしまったから‥だから、千明くんを傷つけてしまった‥。

その事に今更ながらに気づきショックを受けた。

「‥俺は‥花音と出会って‥毎日が楽しいよ。‥それに俺は‥花音が天才だから、近づいたんじゃない。俺は花音の奏でる音をもっと近くで聞いてみたいて思ったんだ。」

「千明くん‥。」

名前を言うだけで精一杯だった。

「俺はずっと、天才の花音を見てきたんじゃない！一人の女の子として見てきた。俺にとっての花音は天才なんかじゃない。普通の普通の女の子だよ！！」


「‥‥ッ‥。」

その言葉を誰かにずっと言ってほしかった。だれかに天才じゃないて否定してほしかった‥。

私の目からは涙が溢れだした。

そして千明くんの想いも溢れだした。


「‥花音。俺は花音のひくピアノが好きだよ。‥だけど、花音が苦しそうにひくピアノは好きじゃない。俺の好きな人がピアノで苦しむ姿なんて見たくないよ。‥だから笑って。」


そう言うと千明くんは涙で顔がぐしゃぐしゃの私を抱きしめた。

「‥そんなに自分を責めないで。花音が苦しい時は俺が側にいるから‥。だから‥苦しまなくていいんだよ。」


「千明くん‥‥。」

いよいよ涙が止まらなくなった。

みんなはやぐらに気をとられてるせいか私たちのことを気にしている人はいなかった。



千明くんは私のためを思って言ってくれたんだ‥。

今までたまっていたものが心の中から消えた。

千明くんの気持ち、ちゃんと受け取ったよ。


「‥ありがとう‥ありがとう‥。‥ッ‥。」


「大丈夫、大丈夫。花音は一人なんかじゃないよ。俺の他にも樹生や結がいる。みんな友達なんだから頼れよ。そして、愚痴れ。みんな、花音の話聞くからさ。」

千明くんは私の頭をなでた。

「うん！ありがとう！千明くん、ごめんね。」

「そのごめんはいらないよ花音。俺が言いたかったことだし。まぁ‥ちょっときついことも言ったかも‥だし‥。あっ！それより涙ふいてやぐら見ようぜ！」


そう言うと千明くんが私の涙を手でふいた。

「よしっ！涙、止まったな！ほら、早く見よう！」

そして私の手を握って私と一緒にやぐらを見た。

やっぱり、千明くんの手は温かかった。