空色プレリュード
五小節目
想いを奏でる音楽室
私は放課後、音楽室でピアノをひいていた。
カノンていう曲を‥。
千明くんと出会った曲。
丁寧に‥丁寧に‥千明くんとの思い出を振り返りながら‥
パチパチパチ!
曲が終わると拍手をする音がした。
私が振り向くと‥
「やっぱり、花音がひくピアノはうまいね!」
そこには千明くんがいた。
「ありがとう‥。」
今日は千明くんに話さなくてはいけない。だけど‥勇気が出ない‥。
「今日のピアノは聞いててすごく心地よかったよ。何かあった?」
千明くんはいつも通りに聞いてきた。
「‥これね‥千明くんのことを想ってひいたんだ‥。‥ッ‥。」
まだ何も大事なこと言ってないのに涙が溢れ出した。
すると千明くんはうしろから私を抱きしめた。
「ち‥千明‥くん?」
千明くんは優しい表情で私に言った。
「俺のことは気にせずにさ‥花音がやりたいようにやったらいいよ。花音の夢、叶ってほしいからさ‥。」
「‥ッ‥!‥‥ごめん‥ごめんね‥千明くん‥。言えなくて‥ごめん‥。」
涙が溢れて止まらなくなった。
千明くんも気づいていた。私が悩んでいることに‥。
千明くんにはそんなこと言わせたくなかった。言わせたくなかったのに‥言わせてしまった。
私が‥なかなか決められなかったから‥。
「謝らなくていい。‥花音の音でわかった。悩んでるて。‥ピアノの音でしか花音の気持ちが分からないなんて、俺もまだまだだな。」
千明くんはそう言って笑った。
「千明くん‥フランス留学のこと、黙ってて‥‥ごめん。私、ずっと悩んでた。将来、どうしたいのか‥。」
千明くんは抱きしめるのをやめて、花音の隣に椅子を持ってきて話を聞いていた。
「私‥やっぱり、ピアニストになりたい。‥だから‥フランスに行ってピアノのことを勉強したいて思ったんだ。」
「‥そっか‥。」
千明くんは真剣に話を聞いてくれていた。
「でも‥不安もある。それは‥千明くんのこと‥。千明くんのことも考えた上での答えのつもり‥。」
つらい‥。もしかしたら‥千明くんは私以上につらいかもしれない‥。
もう‥これまでかな‥
「‥花音。別れたかったら別れてもいいよ。」
千明くんは優しい表情で言う。
「留学に支障が出るなら、別れよう。‥‥俺は、たとえ遠距離になったとしても、花音の帰りを待ち続けるつもりだよ。」
千明くんの優しい表情の中には決意もあったのだ。
私の目からはまた涙が溢れて止まらなくなった。
「これは俺の気持ち。あとは‥花音が決めて。覚悟は出来てるから‥。」
千明くんの想いに私の想いも溢れ出す。
「‥本当は別れたくなんかないよ‥。私以外の女の人が千明くんのそばにいることなんか考えたくない‥。‥だけどいつ、帰って来られるか分からないのに‥千明くんを1人にさせたくない。」
これが私の想い。