泣かないで、楓
「はぁ、はぁ、はぁ」
デジタル時計をチラリと見ると、6時10分。駅を降り、再び全速力で走る。閑静な都内の住宅街には人も車もおらず、僕の荒い呼吸と、ミンミンとこだまするセミの鳴き声だけが響いていた。
10分後、事務所の前に汗だくでたどり着いた。事務所は5階建てのマンションの一室にあり、扉には『アクションショー・ガイア事務所』と大きく書かれた白いプレートがかかっている。
玄関のノブを回すと、扉は空いていた。すでに誰か来ているのか。
「くそっ」
僕は乱暴に扉を開け、部屋の中に入った。もわん、とした強い熱風を全身に感じた。部屋中に広がる酸っぱい汗と服の匂いが、鼻にツーンと突き刺さる。
冷房はおろか、扇風機すらない狭い室内。2LDKの間取りではあるが、ヒーローやアニメキャラクターの衣装が部屋中にところ狭しと吊り下げられており、ちょっと歩くのも困難なくらいだ。
集合時間まで、あと10分。その前までに作業を完了させなければ、先輩たちに殺される。僕は慌てて奥の部屋へ行き『アイムレンジャーショー カワピア遊園地』と書かれたタグが付いている、旅行用スーツケースを開けた。
面(めん)に、タイツに、ブーツ。全部ある。本来、僕の様な新人は、集合時間の30分前には来て、これから行くヒーローショーの為の衣装や小道具を、すべてチェックしなくてはいけない。一つでも忘れた場合は、ショーが成立しなくなる。
頭の中で、先ほど見た夢が思い出される。
『お前は、一体何の為に闘っているんだ?』
嫌な夢を見たせいか、とんでもない睡魔と冷や汗が、僕に襲いかかってきた。
デジタル時計をチラリと見ると、6時10分。駅を降り、再び全速力で走る。閑静な都内の住宅街には人も車もおらず、僕の荒い呼吸と、ミンミンとこだまするセミの鳴き声だけが響いていた。
10分後、事務所の前に汗だくでたどり着いた。事務所は5階建てのマンションの一室にあり、扉には『アクションショー・ガイア事務所』と大きく書かれた白いプレートがかかっている。
玄関のノブを回すと、扉は空いていた。すでに誰か来ているのか。
「くそっ」
僕は乱暴に扉を開け、部屋の中に入った。もわん、とした強い熱風を全身に感じた。部屋中に広がる酸っぱい汗と服の匂いが、鼻にツーンと突き刺さる。
冷房はおろか、扇風機すらない狭い室内。2LDKの間取りではあるが、ヒーローやアニメキャラクターの衣装が部屋中にところ狭しと吊り下げられており、ちょっと歩くのも困難なくらいだ。
集合時間まで、あと10分。その前までに作業を完了させなければ、先輩たちに殺される。僕は慌てて奥の部屋へ行き『アイムレンジャーショー カワピア遊園地』と書かれたタグが付いている、旅行用スーツケースを開けた。
面(めん)に、タイツに、ブーツ。全部ある。本来、僕の様な新人は、集合時間の30分前には来て、これから行くヒーローショーの為の衣装や小道具を、すべてチェックしなくてはいけない。一つでも忘れた場合は、ショーが成立しなくなる。
頭の中で、先ほど見た夢が思い出される。
『お前は、一体何の為に闘っているんだ?』
嫌な夢を見たせいか、とんでもない睡魔と冷や汗が、僕に襲いかかってきた。