泣かないで、楓
　電話連絡をしたら「稽古場に来てください」との事で、特に面接はなかった。志望した新人は、事務所近くのスポーツ施設に集められるらしい。

　指定された場所に行ってみると、集まった人数は、約30人くらい。9割が男子で、1割が女子だった。稽古場となる体育館は、小学校などで利用されるスペースと同じくらいだ。

「憧れだったんだよな、ヒーローって」

　どこからともなく、そんな声が聞こえてきた。室内はウキウキとした空気に包まれており、皆、同じ思いなんだなぁ、とふと思った。

　そんな悠長（ゆうちょう）な事を考えていたら、茶髪のロン毛の男が中に入ってきた。

　身長は180センチくらいあるだろうか。『ACTION STAFF GAIA』と胸に大きく書かれた青色のTシャツがはき切れそうなくらい、全身の筋肉が隆起している。明らかに事務所の先輩だ。

　先輩は新人たちをキッ、と強く睨みつけ、体育館の真ん中に立った。その釣りあがった視線を見ただけで、ガヤガヤとしていた新人たちは、一瞬で言葉を失った。

　先輩はすぅ、と大きく息を吸い込み、言い放った。
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