泣かないで、楓
「この中で“ヒーローになれるから”などと甘い考えで志望した人間は、すぐに出ていけ。きっともたないから」

 先輩からの一言に、新人たちの表情は一瞬で凍り付いた。

「これ、仕事だから。仕事を仕事として割り切れないヤツは、ウチの事務所にはいらないから」

 さらに体育館の空気は重くなる。

「まずお前らには、一ヶ月間みっちり稽古をしてもらう。その後採用出来るヤツだけ残ってもらうから。分かったか?」

 新人たちは、全員が苦虫を噛み潰した表情となった。

「返事はっ!!」
「ハッ、ハイッ!!」

 皆、恐怖におののきながら、大きな声で叫んだ。

 こうして、ショーの為の稽古が始まった。基礎体力作りから、殺陣(たて)の基本、剣さばきetc……。あまりにハードな稽古内容に、僕は面をくらった。

「何やってるんだバカヤロウ!!」

 僕がミスをする度に、先輩はキーキーと声を荒げ、足をダンダン、と踏み鳴らした。

 そんな稽古が連日のごとく続き、日が経つにつれて、一人、また一人と稽古場から姿が消えた。最後に残ったのは、僕と楓の二人だけだった。
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