泣かないで、楓
ある日の稽古の帰り道。電灯もまばらにしか存在しないアスファルトの歩道を、僕は駅へ向かいトボトボと歩いていた。野良犬のワオーンと言う声が、夜空に鳴り響く。ああ、僕だって叫びたいよ。そんな風に。
「アンタ、まだおったん?」
突然背後から声をかけられ、僕は体をビクッ、とこわばらせた。ゆっくり後ろを振り向くと、そこにはニマーッとした笑みを浮かべた、楓がいた。
「え? えーと……」
「楓や楓。アンタと同期の」
この時、楓とはあまり話をした事がなかったので、顔は分かるが、名前はうろ覚えだった。
「そ、それってどう言う意味ですか?」
「よく残ったなぁ、と思って。アンタ、声も体つきも貧相やから、すぐに根を上げると思っとったわ」
そう言うと楓は、カラカラと笑った。
「い、いちゃ、悪いんですか?」
「ちょっと、敬語やめてーや。同期やろ?」
楓は自分の顔の前で、パタパタと手を振った。
「だ、だって、アナタの方が年上じゃ……」
「だーかーら、敬語禁止や。ええか?」
「う、うん」
「3つくらいの差なんて、大した事やあらへん。な?」
楓は、視線をそらさずジーッと、僕を見つめていた。初めて顔をマジマジと見たが、目がクリンとしてて、なんか目力のある人だな、と思った。
「アンタ、顔色悪いけど、ちゃんとご飯食うてるの?」
「えっ!? た、食べて……、るよ」
「野菜とか、食うてへんやろ?」
楓はパンパン、と僕の肩を叩いた。何なんだろう、この馴れ馴れしさ。
「た、たまには食べるよ」
「たまにじゃアカン。毎日食わな」
「は、はぁ」
僕はもう、疲れて声も出ないくらいだったので、正直ほっといてほしかった。
「アンタ、まだおったん?」
突然背後から声をかけられ、僕は体をビクッ、とこわばらせた。ゆっくり後ろを振り向くと、そこにはニマーッとした笑みを浮かべた、楓がいた。
「え? えーと……」
「楓や楓。アンタと同期の」
この時、楓とはあまり話をした事がなかったので、顔は分かるが、名前はうろ覚えだった。
「そ、それってどう言う意味ですか?」
「よく残ったなぁ、と思って。アンタ、声も体つきも貧相やから、すぐに根を上げると思っとったわ」
そう言うと楓は、カラカラと笑った。
「い、いちゃ、悪いんですか?」
「ちょっと、敬語やめてーや。同期やろ?」
楓は自分の顔の前で、パタパタと手を振った。
「だ、だって、アナタの方が年上じゃ……」
「だーかーら、敬語禁止や。ええか?」
「う、うん」
「3つくらいの差なんて、大した事やあらへん。な?」
楓は、視線をそらさずジーッと、僕を見つめていた。初めて顔をマジマジと見たが、目がクリンとしてて、なんか目力のある人だな、と思った。
「アンタ、顔色悪いけど、ちゃんとご飯食うてるの?」
「えっ!? た、食べて……、るよ」
「野菜とか、食うてへんやろ?」
楓はパンパン、と僕の肩を叩いた。何なんだろう、この馴れ馴れしさ。
「た、たまには食べるよ」
「たまにじゃアカン。毎日食わな」
「は、はぁ」
僕はもう、疲れて声も出ないくらいだったので、正直ほっといてほしかった。