泣かないで、楓
 楓はカバンのチャックを開け、ガサゴソと中をまさぐった。

「ほれ、あげるわ」

 楓の手には、ビニール袋に入った、大量のキムチがあった。

「実家から送ってきたんや。余ったから、アンタにやるわ」

 そしてキムチの袋をポン、と僕に手渡した。 

「実家って、韓国?」
「ちゃうわ! 各務原(かかみがはら)キムチ、知らん?」
「かか、みが、はら?」
「……岐阜や」

 信じられない様なモノを見る様な目線が、僕に送られる。

「岐阜って、どこ?」
「はぁ!?」

 楓はへの字に口をゆがめ、一気にまくしたてた。

「なんでアンタ、岐阜もしらんのや! 愛知、三重、岐阜の東海三県を」
「はぁ」
「下呂温泉があって、飛騨高山がある岐阜や。覚えとき」
「う、うん」

 楓はブツブツと呟きながら、首を横にふった。何でこの女は、そんな事くらいで怒るのか。僕にはさっぱり理解が出来なかった。
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