泣かないで、楓
暗がりの空から、大粒の雪がしんしんと降り注ぐ、12月のある日。車も道路も建物も、すべてが白色に包まれていた。こんな景色を見るのは、初めてだ。
僕、東山 恭平(ひがしやま きょうへい)は、真っ白な息を吐き、ぬかるんだ雪の坂道をずんずんと突き進んでいた。16センチの小さな長靴の足跡は、まるでダンスを踊っているかの様に、軽快なステップで家路へと向かっていた。
時刻はまもなく、夕方6時になろうとしている。
「早く早く、もう始まっちゃう」
母の黒い厚手のコートを、綱引きのロープを引くくらいの強さでグイ、と引っ張った。母親はコートが伸びる事を気にしているのか、切ない表情で僕を見つめていた。
僕はそんな事もおかまいなしに、家に帰るまで、彼らの事しか考えていなかった。
自宅のアパートにたどり着くと、つるつるに凍った階段を、幼稚園の徒競走でも見せた事のない様な、とんでもないスピードで駆け上がった。
「カギ開けて!」
僕より少し遅れて到着した母親は、ポケットからカギをのそのそと取り出し、やや赤みの塗装が剥げた玄関の扉を開けた。
「それっ」
ギィィ、と扉が開くやいなや、僕はテレビがある居間へと飛び込んだ。
僕、東山 恭平(ひがしやま きょうへい)は、真っ白な息を吐き、ぬかるんだ雪の坂道をずんずんと突き進んでいた。16センチの小さな長靴の足跡は、まるでダンスを踊っているかの様に、軽快なステップで家路へと向かっていた。
時刻はまもなく、夕方6時になろうとしている。
「早く早く、もう始まっちゃう」
母の黒い厚手のコートを、綱引きのロープを引くくらいの強さでグイ、と引っ張った。母親はコートが伸びる事を気にしているのか、切ない表情で僕を見つめていた。
僕はそんな事もおかまいなしに、家に帰るまで、彼らの事しか考えていなかった。
自宅のアパートにたどり着くと、つるつるに凍った階段を、幼稚園の徒競走でも見せた事のない様な、とんでもないスピードで駆け上がった。
「カギ開けて!」
僕より少し遅れて到着した母親は、ポケットからカギをのそのそと取り出し、やや赤みの塗装が剥げた玄関の扉を開けた。
「それっ」
ギィィ、と扉が開くやいなや、僕はテレビがある居間へと飛び込んだ。