泣かないで、楓
 母親は無言で、テレビの電源を切った。

「あっ」
「お夕飯のお手伝いをして」

 テレビの前に仁王立ちし、鼻の穴をピクピクと膨らませながら、言い放つ母親。

「何するんだよ! バクハツマンが終わっちゃう」
「ダメ。お手伝いが終わってからね」

 僕に向けるその目つきは、とても冷たかった。

「どいて!」

 僕は母親の胸をドン、と突き飛ばし、再びテレビの電源を入れた。
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