泣かないで、楓
 楓はゴクゴクと喉を鳴らし、一気にビールを飲み干した。

「ぷっふぁ~あ、うめぇなぁ」

 楓の表情は、かなりご満悦だ。

「オヤジくさいな、お前」
「はぁ? 今、何て言うた?」

 楓はプン、と頬を膨らまし、僕から顔をそむけた。

「普通にしてりゃ可愛いのに。そう言う所がマイナスなんだよ」
「えっ!?」

 楓は目をランランと輝かせ、僕の顔をのぞき込んだ。

「今、何て言うた?」
「だ、だから、普通にしてりゃ……」
「その先」

 楓の真剣な顔つきに、僕は楓から再び視線をそらせた。

 その後の言葉が出てこなかった僕らは、1分以上も沈黙状態におちいった。ゴトゴトと言う洗濯機の音と、生い茂った夏草と土の匂いと共に。
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