泣かないで、楓
『くそう、このままではやられてしまう』

 気がつけばテレビの中のヒーローは、悪者の攻撃を受け、劣勢に立たされていた。

「あーっ」

 僕は大きな叫び声を上げ、歯ぎしりをしながらテレビにかぶりついた。

「ちょっと、何をするの?」
「うるさい」

 ちらり、と母親の顔を見た。こわばった表情で、その目はまるで血の通っていないロボットの様だった。そうか、お母さんはジャミーラ帝国の一味だったんだ。こんな大事な時間を邪魔してくる母親を、僕は悪者としか思えなかった。

『ワハハハハ。ついに年貢の納め時だな、バクハツマン。大人しく我々の仲間になれ。そして、この世界を一緒に滅ぼすのだ』

 テレビの中の親玉は、よく響く笑い声を上げながら、ヒーローを挑発した。おどろおどろしい薄紫の甲冑に身を包み、目の奥をキラリと光らせている。

「そんな! そんな事……」
『この地球の平和は、俺たちが守る』

 レッドは、強い口調で言い放った。ギュッと握り締めた拳から、その強い意志が感じられる。

「そうだ! そうだよレッド」

 母親はハァー、と深いため息を吐き、ゆっくりと台所へ消えていった。

『バクハツマン、一つ聞いてもいいか? お前は、何の為に闘ってるんだ?』
『何だと?』
『この世は強い者が支配し、弱い物が従う。そう言う世界だ』
『くっ……!!』

 レッドは、苦悩の表情を浮かべた。本当はマスクをかぶっているので表情は分からないが、きっとそうなのだろう。

『我々の味方になれ。すべての生きとし生ける者は、すべてジャミーラ帝国に支配されるのだ』
『そんな事させるモノか!』

 レッドは強く足を一歩前に出し、叫んだ。

『ほう。では、もう一つ聞いていいか?』

 僕はゴクリ、と息を飲んだ。
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