泣かないで、楓
 突如、携帯の着信音がピリリリリ……と小さく鳴り響いた。

「あ、電話だぁ。ちょっと待って下さい」

 浅沼さんはポケットから、携帯電話を取り出した。

「はい浅沼ですぅ。はい、おはようございますぅ。はい、はい……。そうなんですかぁ」

 そう言うと、浅沼さんの表情が一気に曇った。

「はい、分かりましたぁ。失礼しますぅ」

 浅沼さんはピッ、と携帯電話の通話を切った。

「恭平さん、エライこっちゃですぅ! しゃ、社長がすぐ来ます」
「何ぃ!?」

 僕と浅沼さんの表情は、一瞬にして凍りついた。
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