泣かないで、楓
 事務所の扉をバァーン、と激しく開け、白髪交じりの中年男が中に入ってきた。

「英里りーん!」

 この事務所の社長である、源場 光太郎(げんば こうたろう)氏だ。

「英里りん、明けましておめでとう」
「あ、は、はいぃ。おめでとうございますぅ」
「お~よしよし。今年もよろしくな」

 そう言うと源場社長は、浅沼さんの頭をポンポン、と叩いた。いや、“ポンポン”と言うよりも、“ガシガシ”と言った方がいい感じだ。

「ちょ、ちょっと社長、痛いですぅ」
「うんうん。可愛い可愛い。英里りんは正月から可愛いなぁ」

 源場社長の頭ガシガシ攻撃は、とどまる事を知らなかった。浅沼さんはその場を離れたい為か、あわあわと身体をゆらし続けている。

「しゃ、社長。明けましておめでとうございます」

 悲痛な表情の浅沼さんを助けようと、僕は源場社長に声をかけた。
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