泣かないで、楓

「社長、足は大丈夫なんですかぁ?」

　浅沼さんは、心配そうに社長をチラリ、と見た。

「大丈夫だ。今日は悪ベシャをやるから、そんなに激しくは動かんよ」

　悪ベシャとは、ヒーローショーでの悪の親玉の事である。“悪”で“喋り”をする所から、“悪ベシャ”とウチの事務所では呼んでいた。

　ウチの事務所のヒーローショーは３部構成となっており、前半がヒーローと戦闘員たちとの戦い。中間に、会場の子供をステージに上げて、悪者と一緒に遊ぶ『お遊び』と言うコーナーがある。

　悪ベシャは、そこでの中心人物だ。お遊び中は子供たちとコミュニケーションをとりながら、その場のやりとりで会場を笑わせ、和やかな雰囲気を作る。

　その後、空気を一変させ、後半にヒーローと悪玉が戦い、ショーが終了と言う流れになる。と言うか、社長まで現場に出るとは、やっぱ正月は忙しいんだなぁ。