泣かないで、楓

「ち、遅刻だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ～」

　僕は床に転がっているジーンズを拾い上げ、すぐに履いた。何日間履いたのか分からないが、匂わなきゃいいだろ、くらいの気持ちで。そしてタンスに駆け寄り、Tシャツを３枚出し、小さなナップサックに押し込んだ。これだけは、必ず必要になるからだ。

　ボサボサ頭のまま、ナップサックを抱え、そのまま家を飛び出す。まずい、まずい、まずい……。その言葉を心の中で繰り返し、駅まで猛ダッシュした。

　ああ、ヒーローの様に、戦闘用ジェットがあればいいのに。そんな悠長な事を考えてるヒマもない。

「ちょっと、すみません」

　駅に着いた瞬間、僕は改札にいる人たちを押しのけ、列車が来るホームを目指した。東京の日曜日の早朝。駅には、休日出勤のサラリーマン、朝まで遊んだ大学生、水商売のおねーさんなど、様々な人種がいる。

　皆、僕に「迷惑な客だ」と言った視線を向けてくる。僕はそんなのをおかまいなしに、電車へと飛び乗った。