君が涙を忘れる日まで。
息を切らして三両目のいつもの場所から電車に乗り、下を向いたままハァハァと乱れた息を整える。

ただでさえ寝癖なのに、余計乱れたかも。急いでサッと手で髪を撫でた。


呼吸が落ち着いたところでゆっくり顔を上げると、反対のドアに外を向いて立っている園田君のうしろ姿がすぐに目に入ってきた。


いつもはドアに寄り掛かりながら眠そうに俯いていることが多いのに、外を見てるのは珍しい。


今、園田君の目にはなにが映ってるんだろう。なにを考えているんだろう。もしかしたら、目を瞑ってるのかもしれない。



「奈々、ねー奈々聞いてる?」

「え、なに?」

「奈々はバイトしないの?」

「バイトね、したいけど無理かな。部活忙しいし」

「そっかー、だよね」


私達の会話は、二メートルくらい離れている園田君にも、聞こえるんだろうか。


「私バイトしようかなー、奈々が部活やってるとき暇だし。この前行ったアイスクリーム屋とか募集してないかな」

「あそこの制服なら可愛いし、香乃に似合いそうだね」


ごめんね、香乃。


香乃と話しをしながらも、私の意識はずっと、園田君に向いている。


ドアが開くと態勢を変えて、その度に見える横顔に胸の奥が熱くなる。




揺られること三十分で駅に着くと、同じ制服を着た生徒たちが一斉に電車を降りた。

階段を降りて改札を出て川沿いの道を進み、短い橋を渡って学校を目指す。


駅から十分、園田君のうしろをまるで付いて行くみたいに歩く私達。

電車に乗ってから学校に着くまでのこの時間が、なんだか幸せだと思える。


でも今日は、今日こそは挨拶しよう。

学校に近づくにつれて緊張で重くなる足取り、それに喝を入れるかのように一歩一歩力強く足を進めた。


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