君が涙を忘れる日まで。
二人が放つボールの音と、バッシュの音だけが体育館に響く。

さっきから、樋口が使っているゴールの方からは、ボールがリングに当たる音があまり聞こえない。

それに比べて、俺は絶不調。

ガンッ、ガンッ、と何度もリングに当たるし、しかも入らない。

下手だと思われているんじゃないかと、そんなくだらない心配までしてしまう。


リングに当たって弾き飛ばされたボールを拾い顏を上げると、丁度時計が目に入った。

もうすぐ八時になろうとしている。


そろそろ着替えるか。

そう思いながら彼女の方にふと視線を向けると……。



二階の窓から朝日が差し込み、その光が……シュートを放つ彼女を照らしていた。


目に映るその姿に、ドキドキと心臓が高鳴る。


特別顔が綺麗とか、そういうわけではない。

それなのに、俺の心臓はなかなか治まってくれなかった。



何故か目を逸らせずにいると、時計を確認するかのように、彼女が急にこちらに視線を向けた。


俺は咄嗟に俯き、そのまま鞄を手に持つ。


別に、俺を見てたわけじゃない。

時計を見ただけで、多分、目も合っていない。


なのに、なんだこの気持ちは。


クラスも違うし、喋ったこともない。

それなのに……顔が熱くなり、心臓の鼓動は早まるばかりだ。


まるで、自分が自分じゃないかのように思えた瞬間だった。


『お疲れ』とか『お先』とか、いつもの俺ならいくらでも言えるはずなのに、俺は彼女から逃げるようにして体育館を後にした。




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