君が涙を忘れる日まで。
文化祭当日、俺は別に実行委員ってわけじゃなかったけど、なにか手伝えることがあればと思い、少し早く家を出た。


今時のお化けは「恨めしや~」なんて言わないだろうから、なんて言って驚かそうか。


そんなくだらないことを考えながら自転車を漕いでいると、川沿いの道にさしかかる。


さすが文化祭の当日だけあって、早く登校しているのは俺だけじゃないみたいだ。

通学路にはいつもより沢山の生徒が歩いていた。


道路の端を漕いでいると、橋の方からこちらに向かって走ってくる人の姿が目に入った。


俺は無意識にブレーキをかけ、その場に止まる。


樋口……?



物凄い勢いで走ってきた樋口は、俺の横を……


風のように通り過ぎて行った。




神妙な面持ちで、誰かに追われているのかと思う程早く。


樋口のうしろ姿を見ようと振り向いたけど、その姿はあっという間に人混みの中へと消えていった。



周りが見えなくなるほど、大切ななにかを追いかけるように必死に走る樋口。


その姿が、頭から離れなかった。






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