君が涙を忘れる日まで。
午前中のお化け役を見事やりきった俺は、トイレでメイクを落として鏡に映る自分を見つめた。


「ふーっ、疲れたな」

独り言を呟き手を洗ってトイレを出た俺は、そのまま四組に向かった。


ポップコーン屋か。

修司はハチミツバターが美味しいと言ってたけど、甘いのはちょっと苦手だから無難にカレー味でも食べてみるか。


中に入ると、カラフルな色で装飾された教室。

さっきまで真っ暗な中で潜んでいた俺にはちょっと眩しい。


「いらっしゃいませ~」

修司は汗だくになってポップコーンを作っていて、入ってきた俺には気付いていない。

俺はそのまま窓際の空いている席に座った。


つーか、この店とポップコーンと俺って、かなりのミスマッチだな。

なんとなくこの雰囲気が恥ずかしくて、俯いてしまう。


すると、ピンクのエプロンをつけた生徒が俺の席にやってきた。

「いらっしゃいませ、何にしますか?」


その声に顔を上げると、樋口が笑顔で俺を見ていた。

咄嗟にまた俯く。


「あっ、えっと……おすすめは?」

「ハチミツバターが美味しいですよ」

「じゃ、じゃーそれで……」

「かしこまりました」



五分ほど経ってポップコーンを運んできたのは、樋口ではなかった。

いつの間にか教室からいなくなっていた樋口。

ついでに修司もいない。


そっか……。



ポップコーンを口に入れると、甘さとバターの塩気が上手く混ざり合っていた。


「なんだよ……すげー美味いじゃん……」






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