君が涙を忘れる日まで。
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「今日からバスケ部のマネージャーになります、浅木香乃です。宜しくお願いします」
短い黒髪を揺らしながら俺たちの前で挨拶をした浅木。
緊張した様子で大きな目をキョロキョロとさせていた。
喋ったことはないけど、俺は浅木を知っている。
思えばこの時からだった。
樋口の笑顔が、少しずつ少しずつ……減ってきたのは。
部活が終って着替えていると、男臭くて狭い部室の中では最近公開になった映画の話で盛り上がっている。
俺も見たいと思っていたアクション映画。
いつもなら会話に入っていって誰よりも喋っていたと思うのに、今日はひと言も喋らないで黙々と着替えている。
今俺の頭の中は、樋口のことでいっぱいだったから。
修司に聞いたことがある。浅木は樋口の幼馴染だと。
毎日同じ電車に三人で乗っている。
マネージャーになった浅木は、不慣れながらも一生懸命やっているようだった。
修司はそんな浅木をなにかと気にかけていて、二人で楽し気に話している姿も見た。
そんな二人とは反対に、樋口は時々今まで見たことのないような複雑な表情で修司を見ている時がある。
それが、修司を見ているのか浅木を見ているのかは定かじゃないけど。
着替えを終えた俺は一番に部室を出たが、女子の姿は見当たらない。もう帰ったんだろうか。
「珍しく早いな、なんか急いでんのか?」
俺の次に部室を出てきたのは修司だった。
「いや、そういうんじゃないけど。あのさ修司、駅まで一緒にいかないか?」