君が涙を忘れる日まで。
同じクラスだから下駄箱で必ず一緒になるし、タイミングはいくらでもあるけど、香乃の前でいきなり話しかけたら香乃はどう思うだろう。

クラスメイトなんだから別に何も気にならないのか、それとも……。


「あっ!ヤバい、今日私日直だった!先行くね」

「え?あぁ、うん」


計ったように訪れた展開に、正直驚いた。

でもこれで、もう言い訳はできない。



園田君のうしろを歩きながら下駄箱に着き、上履きを手に取る。

他のクラスメイトと気軽に挨拶を交わす園田君の横で、緊張感マックスの私は上履きを履く単純な動作でさえぎこちない。


先に上履きを履いた園田君が私に背を向けた時、かかとを上げて一歩前に進み一瞬だけキュッと目を瞑って口を開いた。


「あの!園田君、おはよう」


早くなる呼吸を抑えるように、両手を胸の前で合わせて握った。


「……おはよう」


振り返った園田君は、少し驚いたように目を開いて返事をしてくれた。

だけど困った、この先の会話はなにも浮かばない。


ただ黙って見つめる私に向かって、園田君は頬を緩ませて笑った。


「教室、行こうよ」

「あっ、うん」


遠慮がちに半歩うしろを歩きながらも、喜びに包まれた私の目からは今にも涙が出てしまいそうだった。


「おはよー」
「おはよ」


教室に入るなり、園田君は大きな声でクラスメイトに挨拶をした。それにつられて私も声を出す。


「なんだよお前ら、同伴通学か?」

「なんだそれ、アホか」


からかうような声を軽くあしらって、真ん中の一番うしろの席に着いた園田君。

私はそんな彼の席を通り過ぎ、窓際の前から二番目に座った。

せめて私の席が園田君よりもうしろだったら、いつでも見られるのに。




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