君が涙を忘れる日まで。
*
修司の気持を知った俺がなにかしたかというと、なにもしていない。
友達でもない俺がいきなり樋口を励ますわけにもいかないし、仲良くない俺には笑わせることだって出来ない。
声をかけることすらできないまま、二学期の終業式を迎えた。
体育館での終業式が終わり、教室で通知表やら配布物やらを受け取ってようやく二学期が終了。
今日は部活もないため、このまま帰ることになる。
冬休みはどこいくとか年末は誰と過ごすとか、そんな話題が飛び交う廊下に出ると、不安そうな顔をしている樋口を見つけた。
女子も今日は部活休みなはずだけど、樋口は今にも泣きそうな顏をしたまま俺の前を横切って、下駄箱とは反対の方向に歩いて行った。
自分でもどうしてか分からないけど勝手に足が動いて、俺は樋口の後を追った。
たどり着いたのは体育館。
樋口は体育館のドアの前に隠れるようにして立っていた。
俺は校舎の陰からその姿をジッと見つめる。
その時間は、ほんの数分だったと思う。
視線の先にいる樋口は一瞬目を瞑り、意を決したかのように体育館の中を覗く。
だけどその次の瞬間、樋口は崩れ落ちるようにしてドアの前にしゃがみ込んだ。
両手で顏を覆っているけれど、その体は小刻みに震えていた。
堪らず樋口の元へ駆け寄ろうと一歩前へ出ると、立ち上がった樋口はそのまま走り去って行ってしまった。
追いかけよう。そう思った時、体育館の中にいる人物がチラッと見えた。
修司と浅木……。
こういうことに疎い俺でも、今なにが起こったのかくらい分かる。
俺は樋口に、なにもしてやれないのか。
今きっと、樋口は泣いている。
そう思うだけで、胸が強く締め付けられるのを感じていた。