君が涙を忘れる日まで。


三学期を迎えてからは、元気がなくなった樋口を見ているだけの時間が、一日一日とただ流れていくだけだった。


樋口はあんなに上手かったシュートも乱れていて、部活に集中できていない。

いつも苦しそうな顔をしていて、笑うことは殆どなくなっていた。



授業が終わって体育館に入ると、座っている修司の前に樋口が立っていた。

二人が話しているのを見るのは久しぶりだった。


俺もどさくさに紛れて修司の側へ……って、え?

なにを話していたのか分からないけど、樋口は眉間にしわを寄せたまま、また俺の横を通り過ぎて体育館を出て行ってしまった。


怒ってた?でも、不安そうな顔だった気もする。



「おい、修司!今なに話してたんだよ」

「えっ、今って奈々と?」

「そうだよ!」

「香乃が遅いけどどうしてかって聞いてきて、でも……」

「でもなんだよ!」

「奈々の様子がおかしくて、香乃になんかあったんだとしたら……」


俺は修司の腕を掴み、無理矢理立たせた。


「貴斗?」

「気になるなら行けよ!浅木はお前の彼女なんだろ?」


詳しい事は知らないし、俺には何がなんだかよくわからい。

でも少なくとも、樋口の表情はいつもと違っていた。

なにもないならそれでいいけど、もしなんかあったんだとしたら……。



とにかく俺は、修司にもその彼女の浅木にも、笑っててほしいし。

俺の好きな奴、みんなが幸せになればいいって思ってる。


だから、樋口にもまた……笑ってほしいんだ。



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