君が涙を忘れる日まで。
「貴斗、行こうぜ」

「おう、今日はサッカーだっけ?俺苦手なんだよなー。しかも今日は試合やるとか言ってたし」

俺は腕を頭のうしろで組み、廊下を歩きながら修司に向かって呟いた。

「安心しろ、俺も苦手だから」


女子は体育館か。樋口は運動神経いいし、なんでもそつなくこなすんだろうな。

っていうか、いつか樋口とバスケで一対一をやってみてぇな。


靴に履き替え外に出ると、雲のない青空が校庭を照り付けている。

先生が半分にチーム分けをして、試合が始まった。

ボールを操るのは得意中の得意。手、だったらな。


クソッ、なんですぐ俺の足から離れるんだよ!

つーかずっと足元にボールをキープしたまま走るなんて、絶対無理だろ!


だけどサッカー部の奴は、俺がこんなに苦戦しているドリブルをいとも簡単にやってのけた。

悔しいな。サッカーは苦手だけど、このままじゃ悔しい。


中学の頃から運動神経だけはいいよね~、って言われ続けてきたんだ。

運動神経だけ?あぁそうだよ!俺には男としての魅力なんて微塵もない、だったら全ての運動を極めるまでだ!


サッカー漫画なら読んだ。完璧なまでに、イメージは出来てる。


「貴斗!」

クラスメイトが俺の足元へパスを出した。

それを右足でしっかりと止めた俺は、そのままドリブルをしようと走り出した時……。


「うわぁっ!」


突然スライディングされた俺は、伸びてきた相手の足を避けようと飛び上がり、そのまま地面へ倒れ込んだ。


「痛って~」

「悪い、大丈夫か?」


スライディングしたクラスメイトが申し訳なさそうに謝ってきたが、たいしたことじゃない。それだけ真剣にやっているという証拠だ。


「いや、全然大丈夫」

そう言ってゆっくり起き上がろうと顏を上げると、校舎の窓が目に入ってきた。


二年二組の窓からこちらを見ているのは、樋口……。




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