君が涙を忘れる日まで。


その後の授業でも、樋口はいつもと変わらない顔をしていた。

切なそうに前を見つめ、時々窓の外に視線を逸らす。その繰り返しだ。


例え樋口が修司を好きでも、笑ってくれるならそれでよかった。



先生が話す短歌が頭を通り抜ける中、俺は樋口の横顔をジッと見つめた。


俺もさ、俺の本心も、違うんだ。

いつもふざけておちゃらけて、なんでもないふりして笑って。

だけど、樋口が俺の横を通り過ぎる度に、心臓が俺に伝えてくる。


あぁ、またかって。


俺のことが見えていないのは、それだけ樋口が修司を思っているからだ。


なにも出来ないくせに、臆病者のくせに、友達のために必死に笑ってる樋口の方が、よっぽど頑張ってる。


だけど、笑いながら泣いている樋口の気持に気付いたから、俺は臆病者を卒業しよう。


樋口がまた、笑えるように。


たとえその目が俺を見ていなかったとしても、笑ってくれるなら……。





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