君が涙を忘れる日まで。
「俺は高校から始めたから素人だし、全然ダメなんだ」

ボールをポーンと高く上げながら、園田君が呟いた。


「今までは体育とか遊びでしかやったことなかったけど、部活として真面目にやってみたらバスケって面白いんだなって気付いてさ、もっと上手くなりたいな」


はっきりとした口調でそう言い、ボールを見上げる横顔は、とても凛としていた。


「っていってもこの通り、ドリブルもまだおぼつかないけどね」


その場でダンダンとドリブルをして見せた園田君、私もバスケを始めたばかりの時はそう思っていたから、上手くなりたという気持は凄く分かる。


さっきまで緊張して上手く言葉が出なかったけど、バスケが面白いと言ってくれただけで似た者同士になれた気がして、急に距離が縮まったように感じたから。


「朝練とか……」

「ん?」


「朝練とか、自主練とかもしやる時があれば、私いくらでも付き合うよ。あっと、あの……私もバスケ好きだし」


取ってつけたような言い訳に自分で苦笑いを浮かべると、園田君は「ありがとう」と言って微笑んだ。


そのすぐ後から他の部員が次々とやって来て、ボールの音や話し声で一気に騒がしくなった体育館。


「じゃー、部活頑張ろうね」

「うん」


二人きりだった時間は、多分ほんの数分だったと思う。

それなのに……パッと花が咲いたような園田君の笑顔はずっと脳裏に残っていて、ハードな練習中でもそれが消えることはなかった。





 *

部活が終わって家に帰ると、すぐに香乃へLINEを送った。

熱はないみたいだけどとにかく鼻水が凄いらしく、クマのような変なキャラクターが涙と鼻水を垂らしているスタンプが何度も送られてきた。

LINEでやり取りできるなら、まぁ大丈夫だよね。



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