君が涙を忘れる日まで。
 *


翌朝、私の予想に反して、熱が出たから休むと香乃のお母さんから連絡があった。

本人が直接連絡をしてこないということは、結構熱が高いのかもしれない。

今日は部活もないし、香乃の好きなコンビニのプリンでも買って帰ってあげよう。


入学以来ずっと香乃が一緒だったから、一人で電車に乗るのは初めてだ。

話す相手がいないのはちょっと寂しいと思った時、ふと浮かんだのは園田君の顔だった。



昨日より少し早くホームに着いた私は、いつもの場所で電車を待った。


もう挨拶もして、バスケについての話しもしたし、なにより委員会も同じなんだ。話しかけたって不自然なことは何にもない。


だからこの胸のドキドキさえおさまってくれたら、話しかけられる。



電車がホームに入ってきてドアが開くと、やっぱりいつもの位置に園田君は立っていた。

今日はドアに寄り掛かったまま目を瞑って俯いている。

電車に乗ったそのままの勢いでおはようって言おうと思ったのに、目を瞑られると行きにくいな。


ドアが閉まり、ガタッと揺れながら電車が発進すると、俯いていた園田君がパッと顔を上げた。

反射的に今度は私が俯く。って、下向いてどうすんのよ!


次の駅に着いた時、鞄の紐を両手で強く握った私は、意を決して園田君が立っている場所に向かった。たった五歩で行ける距離。


「あの、おはよ」

「おお、おはよう。気付かなかった」


今どこの駅だと確認するように、キョロキョロと窓の方へ視線を向けた園田君。


「あれ?今日はひとり?」

「香乃は風邪引いちゃって休みなんだ」

「香乃ちゃんっていうんだ。毎日一緒に学校行ってるよね」

「うん、幼馴染だからね。小さい頃からずっと一緒なんだ」

「へぇ、そういう関係っていいね。俺は幼馴染なんていないからな~」


園田君は座席横の手すりに寄り掛かり、私はそんな園田君の方を向いて吊革に掴まった。


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